かねもちクラブ…
五月の空は青く、そして美しかった。
新緑の木々が風に揺れるたび、小鳥たちが楽しげにさえずる声が聞こえてくる。その音色に誘われるようにして、わたしは庭へと出た。
小さな池のほとりで足を止めると、水鏡を覗き込む。そこに映った自分の姿に、わたしは小さく笑みを浮かべた。
ふっくらとした頬、柔らかな髪――それらは今よりもずっと幼い頃のものだけれど、記憶にある姿よりは大人びている気がする。それはきっと、身体つきの変化によるものだろう。
十五歳という年齢は、子供から大人への過渡期だ。だから今のわたしの姿も、おそらく数年後には変わってしまうはずだ。
(……そういえば)
もうすぐ十五歳の誕生日を迎えるのだということを、不意に思い出す。
この家に引き取られてから一年あまり経つけれど、誕生日を迎えたことはなかったし、そもそもそんなことは考えないようにしていた。だってお母さまとお父様はわたしの誕生日など祝ってくれなかったし、使用人たちだって腫れ物に触るような扱いだったのだもの。
でも……これからは違うかもしれない。少なくともあの方だけは、何かしら祝いの言葉を口にしてくれるような気がした。
(……って! 何考えてるんだろ、わたしっ!!)
慌ててかぶりを振る。
確かに彼は優しい人だし、口下手だけど悪い人ではないと思う。
でもそれはあくまでもわたしに対する好意であって、彼自身に向けられたものじゃない。
それに何より……わたしにとって、彼の存在はまだ大きすぎた。
初めて会ったときのことを思い出すだけで胸の奥が熱くなるし、名前を呼ばれるたびに鼓動が高鳴ってしまう。
こんな気持ちになるなんて思っていなくて、戸惑いばかりを覚えてしまう自分がいるのだ。
でも……それでもやっぱり……
(会いたいよ……)
思わずこぼれそうになる言葉をぐっと呑み込み、わたしは再び屋敷の中に戻った。
窓辺に置かれた椅子に腰かけながら、そっと外の様子を窺う。
今日は特に来客もなく、穏やかな時間が過ぎていくようだ。
ほっとしたような、寂しいような――複雑な気分になりつつ、わたしは本を手に取った。
お気に入りの物語をゆっくりと読み進めていくうちに、いつしか意識は物語の世界へと引き込まれていった。